「総支配人の花城もそろそろ帰ってくるはずなんですが……」

 藤堂が腕時計に目をやると困ったように笑った。

「総支配人は外出中ですか?」

「えぇ、あなたが来る前には帰ってくると連絡があったのですが……まったく何をしているのでしょうね……深川さんもお疲れでしょう? よかったら今日はもうお休みになりますか?」

 本来なら花城が戻ってくるまで待って、今日中に挨拶をしなくてはいけないところだが、美貴は黎明館に無事に着いた安心感からかどっと疲れが押し寄せ、先程から猛烈な睡魔と闘っていた。そんな美貴に気づいたのか藤堂が気を遣って花城には話をつけておいてくれるという。

「従業員のほとんどは皆、泊まり込みです。黎明館の従業員寮がありますから、そちらへ先にご案内しましょう」

「でも……」

 本当に先に休んでしまっていいのだろうかと戸惑っていると、そんな美貴に藤堂がにこりとする。

「時間に遅れてくる花城が悪いんです。申し訳ありません。駅のコンビニに行くって言ったまま一時間も帰ってこないなんて……まったく」

 ぶつぶつと最後の方は愚痴のようになっていたが、美貴は聞き逃さなかった。