黎明館までの道のりは長く、静かな山中に悠然と佇んでいた。


 今は夜でよく見えないが、明るい時間にこの建物を見たらきっと目を見張る美しさに違いない。耳を澄ませば潮騒の音がして、風に乗って微かに磯の香りもする。近くに海があるのだろう。


(すっかり遅くなっちゃった……)


 黎明館のエントランスでタクシーを降りて受付で名前を名乗ると、一人の若いマネージャーらしき男の人が出てきた。


「初めまして、お待ちしておりました。私、黎明館のチーフマネージャーをしております藤堂誠一と申します」


 藤堂誠一と名乗った男は、清潔感溢れる身だしなみと一字一句間違いのない言葉遣い、そして旅の疲れも吹き飛ぶような笑顔の紳士的な男性だった。


 きりっと結んだ口元は凛々しく生真面目さが窺える。長身で一見細身だが、男性らしい肩幅に白い肌がその黒髪に映えて見えた。


 黎明館のエントランスは文明化の象徴と言われる『鹿鳴館』をイメージした内装で、中へ入ると和を感じさせつつも西洋の雰囲気を取り入れた不思議な空間が美貴を取り巻いた。


(素敵……!)


 ロビーには大きなシャンデリアが吊り下がっていて、全体がキラキラと美しく煌めいて見える。グランドシャルムのインテリアも好きだったが、美貴は黎明館の雰囲気にすぐに慣れ親しみ好感を持った。