記憶の引き出しをバンバン開けてみるが、今はそんな余裕もなかった。その男の目つきは殺気立っているようにも見え、すっかり怖じ気づいた少年らは尻尾を巻いて逃げていった。

「あんた、大丈夫か?」

「……へ? あ、はい」

 ため息交じりに言うと、その男は美貴をじっと見据えた。先ほどの鋭い目つきはなくなっていて、ほんの少し柔らかさのある視線に美貴は戸惑う。

「あんたは――」

 すると、男が美貴の顔を見て何か思い当たる節があるような表情に変わる。そして一歩距離を狭めてくると、美貴は警戒して後ずさる。

「す、すみません! あの、助けていただいて助かりました!」

(こ、怖い……!)

 目まぐるしくことが起こりすぎたために、美貴の頭は混乱していた。その男にぺこりと頭を下げると、猛スピードでその場から逃げるように立ち去る。

「おい! 待てって!」

 遠く背後から呼び止める声が聞こえたような気がしたが、美貴はたまたまコンビニの駐車場に入ってきた流れのタクシーを拾って勢いよく飛び乗った。

「れ、黎明館まで! お願いします!」

「あれ? さっき電話でタクシー呼んだのって男の人だったんだけど……でも行き先が黎明館だからいいのかな?」

 ふと、バックミラーを見ると、先ほどの男がなにか言いながら走り寄って来るのが見えた。また先ほどのように絡まれるのではないかと思うと怖くなる

「いいんですっ! 早く行ってください!」

 ぜぃぜぃ大きく肩を上下させながら、戸惑うドライバーに早く車を出すように急かした。