「おとなしく言うこと聞くのはそっちだろガキ」

 ぎゅっと固く目を閉じて俯いていた美貴の頭の上から低くて力のこもった声が聞こえた。

(え……?)

「あぁ? なんなんだよ、部外者は首突っ込むなっての! いってぇな離せよ」

 美貴の肩をつかもうとしたその手は、別の人物によって遮られていた。

「部外者ねぇ……未成年のくせに粋がってんじゃねぇよ」

 見ると、美貴の目の前に今までいなかった知らない男が立っていて、煙草を手にしていた少年から素早くそれを取り上げると、足でぐりぐりと踏みつけた。

(だ、誰……?)

 すらっと背が高く、長めの下ろした前髪の向こうに見えたのは氷のように少年らを見下げる鋭い瞳――。

「げっ! あんたは……」

「おい、いきなり何すんだよ! 煙草返せ!」

「亮太、おい、やめとけ……この人は――」

 少年のうちのひとりが、いきなり現れた長身の男の顔を見るなり怯えたような様子に変わった。

「本気で怪我したくなかったらとっとと帰って宿題でもしてな」

 少年が先ほど買った煙草の箱を、その男は凄んだ目つきで少年らを睨みながらぐしゃっと手の中で潰した。


(この人……どっかで……)