「はぁ、これだから総支配人は甘いのですよ? 世間の波に揉まれることは、立派な人間性と社会性を身につけるには大切な過程です。確かにグランドシャルムの従業員のレベルは高い、しかしこれがかえってお嬢様のプライドとやる気を削いでしまいかねません。皆についていけなくてかわいそうな思いをするのはお嬢様なのですよ?」

「あーわかってる。わかってるよ」

 政明は美貴がグランドシャルムで就職するのであれば、常に自分の目のいい届くところで娘を見守ってやれると好都合に思っていた。しかし、自分と同じように父親替わりのような存在である水野が大反対したのだった。

 反対の理由はまだ、美貴がグランドシャルムで働くには若すぎるということ、世間を知ら無さ過ぎるということとその他もろもろだった。確かに水野の言い分も十分理解できる。もし、自分の娘が陰で従業員に笑われているなどと知ったら平常心ではいられないだろう。だからといって従業員を引き合いに出して内定取り消しの理由を作り、そして自分の口からその通告をするのは胸をかき乱さずにはいられなかった。

「美貴には明日にでも黎明館に向かうように伝えた。水野、頼んだぞ」

「はい。お嬢様にとってよき門出になることをお祈りしております」

 そう言って、水野は一礼すると総支配人室を後にした――。