美貴のいなくなった総支配人室に、政明の大きなため息がまたこぼれる。これで何度目のため息だろうかと、それを思い返すとまたため息が出る。


 その時――。


「総支配人、水野です」


「あぁ、入ってくれ」


 政明が言うと、水野が部屋に入り礼儀正しく一礼をする。


「お嬢様は……?」


「水野、私は胸も心臓も今にも張り裂けそうだ」


「……さようでございますか。お薬でもお持ちしますか?」


 慇懃無礼とまではいかないが、どことなく人ごとのような水野に、政明は相変わらず冗談の通じないやつだと小さく笑った。


「これで本当によかったのか?」


「はい。きっとお嬢様は立派になって帰ってこられるのでしょうね」


「あんな嘘までつかなくてもよかったんじゃないか?」


 政明の言葉に水野のシルバーフレームの眼鏡がキラリと光る。