美貴は、その小さな顔写真に目を奪われた。写真からでも伝わる凛とした表情に切れ長で芯の強そうな双眸。


「美貴も小さい頃に私の仕事の都合で一週間ほどそこに泊りに行ったことがあるんだが……覚えていないか?」


「う~ん、こんな立派な旅館に一週間も泊まったことあるなら記憶に残りそうなものなんだけど……何も覚えてないよ」


「そうか、実はお前の内定を取り消したという話を龍也にしたところ……あぁ、龍也というのは黎明館の元総支配人の花城龍也のことだが、お前を一年間、黎明館の仲居として雇うと言ってきたんだ」


「も~! 私が旅行中になんでもかんでも勝手に決めないでよ~」


 美貴が頬を膨らませると、政明はすまなさそうに何度も美貴の前で手を合わせた。


「黎明館はグランドシャルムと同じく、多くの有名人がお忍びで宿泊したりする有名どころだ。私も安心してお前を預けられる。龍也は今、海外で黎明館をはじめホテル事業を拡散するために奔走してるらしいが、あいつも気ままなやつだからなぁ……」


 勝手に内定を取り消した挙句、勝手に就職先まで決められ、美貴はなし崩しになっていくようで嫌だったが、全く何もない状況よりは幾分マシに思えてきた。


「黎明館の場所って……ええっ!? なんか、随分遠くにあるよーな……」


 パンフレットに記載されている住所を見ると、東京からおそらく車でも三時間以上はかかるだろう関東圏外に位置していた。