「……わかった。残念だけど、そういうことなら仕方ないよね」

「美貴……」

 渋々了承する娘を不憫に思いつつ、痛む心に政明は表情を歪めた。

「残念だけど、それがみんなの考えなら仕方ないよ。パパの立場だってあるし。もうちょっとバイトとかして社会経験積んだほうがいいってことだよね?」

「バイト……? いや、その必要はない」

「え……?」

 政明が美貴に“待った!”というようして手で制すると、書斎机からパンフレットを一部持って美貴に見せた。


「これを見てくれ」


「れいめい、かん?」


 手渡されたA四サイズのパンフレットを見ると、趣のある日本庭園、そして古き良き佇まいの老舗旅館が目に入った。


「これは……?」


「そこが美貴の新しい就職先だ」


「……へ?」


 グランドシャルムへの内定を取り消しされ、絶望のどん底へ一気に突き落とされたかと思えば、今度はなんだと頭が混乱してくる。


「ここが私の就職先……?」


「黎明館は大正時代から続いてる温泉地の老舗旅館だ。綺麗だろう? グランドシャルムにも負けず劣らず有名な旅館だ。実は私の学生時代からの友人が総支配人を勤めていたんだがこの度引退してね、今は彼の息子が後を引き継いでいるんだ」


 美貴は綺麗にバランスよくレイアウトされた客室の写真や、料理の写真を見ながら最後のページをめくった。




 黎明館総支配人 花城響也――。