それから幸樹と明日奈はあまり顔をあわせない日が続いていた。


「明日奈・・・最近どうしたんだ?
幸樹先生とほとんど口をきいていないね。

何かあった?幸樹先生のお母さんのトラップを試したあの日以降、君たちはよそよそしすぎる。」


「べつに・・・話すことなんてないから、話さないだけだし。
祥万さんにどうしてそんなこと言われなきゃならないの。」


「君が少し前の俺と同じ目をしてるから。」


「えっ?」


「好きな人にかまってほしい、話しかけてほしいのに、何もしてくれない。
かといって自分から話しかける勇気もない。

自分がどうしてほしいのか、はずかしかったり、苦しかったりしてうまく頭の中もまとまらない。
だから、黙ってしまう。
すごくそんな自分がはがゆいのだろう?」


「祥万さんもそうだったの?」


「うん。俺の場合はライも男だからなおさら、言葉が見つからなかった。
好きなんて言ったら、気持ち悪がられて去られるだけなんじゃないかって。

何もいわなければ、そばにいることはできるわけだし、それだけでいいと思ってた。
だけどね、ライは俺を置いて去ったよ。」


「悲しかったでしょ。」


「うん、とてもつらかった。
でも翌日にはメールがきて、すごくうれしくなったんだ。」


「どんなメールだったの?」


「どうしても急ぎの仕事が入ったから、出かけたけれど、決して祥万から逃げたのではないと信じてほしいって。
おまえを愛してるから、毎日メールするよって・・・。
離れたから言えたっぽくてさ。
それからの俺はあんなに苦悩してたのは何だったの?って思った。

おかしいだろ、本人はまだ俺の目の前に帰ってきてないのに、うれしくて仕方がない自分に変身してしまったんだ。
ちょっとした相手の言葉にこんなに、喜んでしまう俺はライに恋してるんだなぁって納得させられた。」


「素敵ですね。」


「俺が思うに・・・明日奈は幸樹先生に不安にさせられてしまうようなことを言われたんじゃないのかな?」


「それは・・・好きになって起こる感情がストーカーや熱狂的ファンと変わらないんじゃないかとか・・・。
自分が積極的になってしまったら私に嫌われるとか。」


「はぁ・・・幸樹先生の脳は爬虫類より劣るんじゃないの?
なんだそりゃ・・・。
いくら女性経験がないとか、モテないくんだからって・・・そこまでとは。

でも・・・ぷぷっ!!」


「何ですか?いきなり笑うなんて。」


「幸樹先生らしいかなって。
明日奈のことを大切に思ってるのはわかるね。
大切にしすぎて、明日奈にかける鎖を自分にぐるぐるまいちゃったって感じだね。あははは。」


「私にはどうすることもできません。
待ってていいのかどうかも、私にはわからなくて・・・ほんとに困ってるんですっ!」