輝彦は言ってからあわてて自分の口を手で押さえた。


「今、頭の中に何かことわざでも浮かんだ?」


「う、うん・・・口は禍の元など・・・あははは。」


明日奈が輝彦の発言にムッとしているところに、幸樹があわてて走ってきた。


「明日奈!今、崇くんから電話があって、君のお父さんがホテルの部屋で暴漢に襲われたって。
支度をしなさい。俺と病院に行こう!」


「は、はい!」


病院まで幸樹に車で送ってもらいながら、どうして父が襲われたのかと明日奈は考えてみた。

そして、その答えを言ってしまうように、幸樹がすぐに発言した。


「狙われたのは君らしいんだ・・・。
昨日、君のお父さんはイベントの仕事でシティホテルで調理したそうなんだが、君の仕事を引き継いだ助手の女性が既婚女性だったそうで、家族といっしょに泊まれる部屋をといってお父さんと部屋をかわったらしい。」


「えっ!」


「あのストーカーが釈放されてたらしいんだ。そしてまずいことに仲間まで集まってたとか。」


「そ、そんな・・・」


「大丈夫だ。俺んちは大家族状態だからな。
だからってわけじゃないけど、助手と使用人の数を増やす。
場合によっちゃ、使用人の格好をしている警備会社の人間を雇うかもしれない。」


「そんな、私ひとりのために、そこまでしてもらうなんてだめです。
申し訳ないです。」


「俺の家で君に何かあってからの方が困る。
そ、そりゃ、俺の家は古くてセキュリティも完全とはいえないが・・・明日奈は絶対守る。
絶対、守るから。」


「あの、それならせめて費用はうちでもたせてください。」


「そんな君が気にするようなことは・・・」


「いいえ。だって、優奈が和樹さんに私のことを頼まなければ、先生はまきこまれることもなかったし、静かに研究だってできたわけでしょう?
崇兄さんも大けがをして、私・・・もういっそのことストーカーさんたちと直接お話をした方がいいかと思って。」


「バカを言うんじゃない!優奈ちゃんも崇さんも君を心配してるから、俺の家に預けにきたんだ。
俺はそれを受けた。
できそうにないことを、俺は引き受けたりはしない。

それにね、この家の敷地には母の趣味がけっこう生かされていて、これがけっこうストーカー対策に役に立つんだよ。」


「えっ?」


「まぁそれは、あとでゆっくり話すとして、病院に行こうか。」