少し俯いた私の頭を、湊人が遠慮がちに撫でた。
「話はー、終わりましたかーー?」
待ちくたびれた、とでも言うように退屈した声が廊下に響く。
顔を上げた時にはもう、私たちの周りには1人も人がいなかった。
「唯斗さん、もちろん僕も行きますが、この人も連れて行って大丈夫ですか?」
「あー、まぁいーんじゃね?お前のー…カノジョ!!」
「彼女じゃないです。」
「そーゆーことにしとけば入れてくれるって言ってんだよ!」
「それでも彼女ではないですよ。誤解しないでください。」
彼が。
湊人が、私を彼女だと断固としても言わない理由を、
私はよく知っている。
だからいつも、逃げ出したくなるのだ。