そのまま声をあげて泣き出した沢木さんの後を引き継ぐようにマサが話し始めた。






『歩さ、コイツと会う時、必ず俺を誘って来てたんだ。

いつも3人で飯食いにいって。

俺には遠藤さんの事をさりげなく聞いて欲しいって。

歩自身が聞いたらコイツが何かするかもって心配だったんだろうな。

俺、自分で聞けばいいのにって不思議に思いながら、遠藤さんの事気になるフリして色々聞いてやってたんだ。

今になって理由がようやくわかった。』






ごめんなさいと泣きじゃくる沢木さんの頭を優しく撫でながら話し続けるマサ。






『ある日コイツが一人で俺のトコきて、歩の好みは何かって必死に聞いてきたんだ。

相談乗ってる内に気になってきちゃって。

健気だなってさ。

こんなに一途に思って欲しいって思うようになって。

気付けば俺にしとけってすげー口説いてた。』






沢木さんの頭にキスをするように口をつけるその顔は。







本当に沢木さんが愛しくて仕方がない。
そんな優しい顔をしてた。




顔をあげた沢木さんも、泣きながらも幸せそうな顔で微笑んでいる。






会社で見せてる笑顔とはまるで違う、可愛らしい笑顔。






「二人とも好きで仕方ないって顔してるわ。

沢木さんはすごく可愛らしい笑顔だし、マサはとても優しい目をしてる。」








そう言った私に少しだけ照れ臭そうに笑う二人。






『遠藤さん気がついてなかったんですか?

結城さんが遠藤さんを見つめる目も今のマサと同じような表情してましたよ?』







『ここに遠藤さんを連れてきた日は、すげー嫉妬の顔で俺を見てきてたな。

遠藤さんが俺を下の名前で呼んだの気に入らなかったんだろうな。』






くっく…と笑うマサにその時の結城歩の様子を思い出す。






確かにどうしてマサと呼ぶのかって聞かれたけど…






えぇっ?
あれってヤキモチだったって言うの?





『“惚れる事はない”って言葉も、ヤキモチから来た言葉なんじゃねーの?』






マサに言われて少し考えてみたけれど。






あの時ヤキモチ妬く様な出来事なんて何もなかったはず。







『考えるより本人に聞いてみた方がいい。

歩に電話してここに来てもらおう。』






マサが携帯のボタンを操作し始めて慌てた。







「ま、待って!心の準備がっ…」






立ち上がって阻止しようとする私を沢木さんが間に入って止めてきた。







『遠藤さん、いい歳して往生際が悪いですよ?

私のせいで二人がこじれたままなんてスッキリ結婚できないじゃないですか〜。
いい加減結城さんと向き合って下さい。

二人には幸せになって欲しいんです。』








最後の方は真剣な顔でそう言ってくれた沢木さんだけど…




一言余計だってば!






悪かったわね!年甲斐もなく往生際が悪くてっ。








『ダメだ繋がんねー。

メール打っとくか。』







ポチポチとボタンを押すマサの姿に少しだけホッとする。






会いたいけど会うのが怖い。







二人の言うように、結城歩が私の事、す、好きだったら嬉しいけれど…







もし違ったら?全て私たちの勘違いだったら?







悪い方向にしか考えられない私にマサの声が聞こえてきた。






『あのさずっと聞きたかったんだけど、遠藤さんて俺や歩と同じ高校だった?』






「え、ええ。入れ違いで卒業しちゃったけど。」






なぜ今聞いてくるのかがわからなかったけれど頷く。






『やっぱり!!髪切った後の遠藤さん見て、どっかで見たことあるなって思ってたんだ。

アルバムの子だ!あ〜スッキリした。』







一人納得してるマサとは違って、首を傾げる私と沢木さん。






あの?アルバムの子って何?






全然わからないわよ?


『マサ、どういう事?アルバムの子って?
一人で納得しないでちゃんと説明してよ〜。』






問い詰める沢木さんに、ああ…と言って話し始めた。






『高校入学して半年位経った頃にさ、歩に付き合わされて職員室で全クラスの、クラス写真見せてもらいに行った事あるんだ。』






思い出すように話し始めるマサに私も沢木さんも黙って続きを求める。






『教師も、不思議そうにどうして見たいのかって聞いたらさ、歩がこう言ったんだ。

“名前も学年もわからないけど、あるものを預かっていてお礼と一緒に返してあげたい。”ってさ。』







『それが遠藤さん!?』







沢木さんが私を見て問いかけて来たけれど、全然思い当たる節が見当たらない。






「私じゃないと思う。だって結城歩とあった記憶がないもの。」





『いや、ぜってーそうだって!クラス写真では見付からなくて、無理言って卒業アルバムまで見せてもらったんだから。

そこに写ってた遠藤さんみて歩、“この人だ”って言ったんだ。

…そうそう!遠藤さん、今位の髪の長さで、なんか胸元に入れて写ってなかった?』







胸元には…しおりを入れて写っていた…わ…。




頷きながら、ハッとする。










まさか……?








だってあの子は…









でも







預かってたものなんて…

お礼だなんて…








それしか思い浮かばないわ。





「ちょっと聞きたい事があるんだけど……

結城歩って……」

























『遠藤さん!?どこ行くのっ?』








鞄を勢い良く掴んで椅子から立ち上がり入り口へと向かう。







体当たり状態でドアを押し開けて店を飛び出す私に、マサの待って…と制止の声が聞こえて来たけれど。






マサに確認して、‘まさか’が‘やっぱり’になった今、動き出す体は止められなかった。






それに…ずっと私を探してくれてたんだって思ったら







一分でも







一秒でも早く会いたくて。







今度は私があなたを探す番だって思ったの。






来た道を戻らなきゃ。






そうすればどこかで、はちあわすんじゃないかって思って。







ガシッ!







マサの店から数メートルも離れていない所で、腕を捕まれて体がガクンっとバランスを崩す。







「!?」








驚き顔だけ振り向いた先には







「結城歩!?」








後ろ向きのまま結城歩の胸の中へと引っ張られる。








バランスを崩しながらも見上げた先に見えた姿は、





緩めたネクタイにワイシャツの上のボタンも外れてて
額から汗を流して軽く息をきらしてる姿。







私をずっと探していてくれたんだって容易にわかるその姿に、
胸が苦しいくらいにきゅうっと締め付けられた。








「ーッ。私ねっ…」








あなたに早く会いたかったの。






そう続くはずの言葉は結城歩の言葉に遮られた。








『俺がマサの店に着く前にまた居なくなろうとしたんですか?

逃がさないって…。逃げないでって言ったはずですよ?』







冷たく言い放つその声色に一瞬体が固まって、思考回路もフリーズ状態になってしまった。







逃げるって?











!!






もしかして結城歩がマサの店に来ると知って、また私が逃げ出そうとしてるように誤解された?







「違っ!私はあなたに早く会い……ちょ、ちょっとどこ行くの!?」






私の弁解も聞かずに、私の手首をガッチリと掴んで歩き出す。







長い足でズンズンと進むその早さと歩幅の広さに、小走り状態で付いていく…いいえ、引っ張られる私。