涙でグシャグシャの顔のまま、穂積が静かになった。


「私のお爺ちゃんのお父さんはね、生まれつき足が短くて戦争に行かなかった。

だけど、裁縫の名人だったんだって。

お爺ちゃんと仕立物を届けに行く途中、千葉の親戚の家で空襲にあったの。

足が悪いから、お爺ちゃんだけ親戚と逃がしたけど、自分は助からなかった。


私だけじゃない。

みんな師匠を愛してるんだよ。

パパもママも優斗も、みんな師匠を助けたいと思ってる。

だけど、

どんなに良い家族がいても

どんなに優秀な先生がいても

『自分を助けたい』と思ってない人を

助けてあげることはできない」


穂積が首を振った。

「わかんない…茜の言ってること分からない…!」