「でも俺元カノでここまで仲いいの小麦くらいじゃね」

「でしょ。感謝して」

「サンキュー」

「どういたしまして」


こういうこと言うし、どこまでもマイペースで勝手で人の話聞いてなくて。



「でもフツーに考えて俺よりいいヤツいっぱいいると思う」

「知ってるつってんでしょ勘違い男」



それでも、なんだか放っておけなくて。知りたくなるのよ、みんな。アンタのことを。振り回されてもいいって、思ってしまうのよ。

魅力的、ってやつ?



「あっ。でもダメだぞ朔は!許さねえからな!」

「……ホンット、アンタにそんなこと言われる筋合いないわ」

「あ!?あいつ狙ってんのかよお前」

「狙ってねーわよ。ウルサイ」



元カノ軍団とだって。

悪口も言うけど、しょうもないクソ野郎だけど、どこか憎めないヤツだってみんな分かってる。分かってて言ってる。

悪口以上に、本当は、好きなところ、も。

とか絶対言わないけど。


ゆっくり、伊吹が上半身を起こした。木々の葉の間を、風が通り抜ける音がする。



「小麦」

「……なに」

「俺いちお病人だから激しいことはできねえけど」

「求めてねえよクソ男」



何を言い出すのかと思えばこいつ。

病人であることに感謝しやがれ。違ったら完璧タコ殴りコースだった。



「けど、チューくらいならいいよ」



そう言うと伊吹は、面白そうに口の端をつり上げて、肩越しにこっちを振り返った。