「あの…新里さんも田畑も昔、この近くに住んでいたはずなんですが…。


田畑…大地さんをご存知ないですか?」


もし、祖母ちゃんの話しが本当なら…清人は若くして亡くなっているから、分からないかもしれない。


でも、弟の大地なら可能性は僅かでもある。




大地の名前を聞いたその女性は、パッと穏やかな表情を見せる。


「あら、あなた本当に大地おじさんの知り合いなの?」


良かった。

「ええ、祖父に頼まれてここまで来たんですが…引っ越したことまで知らされていなくて…」

適当な嘘を並べ立てながら相手の顔色を伺うと、その女性は俺が大地の知り合いだと思い込んだらしく

話しを聞かせてくれた。


「大地おじさんは、もうだいぶ前に隣町に引っ越したわ。


ほら、少し向こうに畑があるでしょ?」と、その女性は俺が歩いて来た道のほうを指差した。


「今は取り壊されチャッて畑になってるけれど、あそこに田畑家の家があったの」


畑へと姿を変えた、その場所を俺は黙って見つめた。


やっぱり、清人はこの町にいた。

この町で鈴と生きていた。


そう思っただけで


涙が滲みそうになる。