群がる人の向こう側――つまり私の靴箱のある列に二人の男女がいた。

 一人は今まさに、愛の告白をしたであろう女の子。

 茶髪の髪をさらりと流し、そこから覗く耳は心なしか赤い。

 その目の間にいる男子は、青木春(あおきはる)高校の有名人――通称『青春の王子』と呼ばれる王野柊司(おうの しゅうじ)だった。

 品行方正、眉目秀麗、運動神経抜群、基本無表情でクールなのがまた最高!

 少し仲良くしてくれたクラスメイトの女子――藤枝(ふじえだ)さんが言っていた。


 王野君は表情を崩さず、思っていることが分からない。

 けれど、その右手が伸び、女の子の頭に乗った。


「ごめん。
忙しくて、今は付き合えないんだ。
だから……また」


 右手が頭を撫で、女の子の顔を覗き込むと、小さく微笑んだ。


 ボンっと音がしたんじゃないかってくらい、女の子の顔が真っ赤になった。

 やじ馬をしていた他の女の子達の悲鳴が聞こえた。


 これが女ったらしというやつなのか、初めて見た。

 最後にぽんぽんと女の子の頭を叩くと、王野君はそれじゃと靴箱をあとにした。

 たくさんの人の前で告白し振られた女の子は、気付けば女友達に慰められていた。


 それを横目に、私は階段を上ったのだった。