探索する書棚は気分次第で日ごとに変わるけれど、座る位置はいつも同じ。

自然光に照らされて少し表面があたたかい、公園に面した窓の側の机。

鞄を机の上において、薄い上に使い古されて更に弾力が落ち込んだクッション付きの椅子に腰掛けると、短く息を吐く。

鉛筆の音など響かない、水で満たされたように静かな、それでいて陽の光がぽかぽかとあたたかい、この空間がやはり好きだ。

静かにページを繰りながら、活字の集合に想いを馳せる。

ファンタジー物なら、特にどっぷり。浸かっている気がする。

本を読んでいる間、別の世界に意識は飛んでいるのだと思う。

同じ物語を共有する登場人物に感情移入している間、時間も学校も友達もすっかり忘れてしまう。現実逃避に近い。

銀時計を盗んだ美女を追う健脚の田舎娘という謎の組み合わせが、私的には大ヒット。

目まぐるしく舞台は転換し、何やら魔弾の射手的なものから田舎娘が命からがら逃げ果せた場面に到達した辺りでふと意識が遮られる。



あ、来た。



斜め前方に人の気配。少し視線を上げると、慎重に椅子を引く手と、黒地の袖口が目に入る。

図書館の利用者といえばほぼ定期的に訪れる常連とはいえ、その数たるや、素人目にはいちいち顔など覚えられたものではない。

だがしかし、例外というのはあるもので。



いつも同じ時間に、同じ場所に、同じ服を着て現れる。



さらにそれが自分と歳の近い人間だったなら、その顔を脳裏に刻んでしまうのは非常に容易いことだ。