書架に対面する前に、図書館に入るとまず受付の方に目を遣る。

この図書館の中で、私が唯一その名前と顔を覚えている存在———受付のお姉さんに会釈をするためだった。

週2、3回でローテーションするこの愛想のいいお姉さんたちに、どうやら顔を覚えられている私だが、実はお姉さんのお世話になったこと自体はあまりない。

私の読書は図書館内で終了する。よって、私は貸し出し受付に用があった試しがない。単純な理由だ。

小難しい学術書や外交問題を嘆くつまらない新書のようなものばかりが並んでいる新刊コーナーを一瞥して通り過ぎると、小説の書架の並びに向かう。

難しすぎる学術書や専門書以外なら、基本的に何でも読むけれど、やっぱり本を読みに来たのなら小説だ。どのジャンルに手を出すかは、気分次第。

適当な書棚の、適当な段の端から指でなぞって、本を探す。

何を基準に決めるかというと、それはもう直感だ。

背表紙でピンときたら手にとる。基本的に面食いなので、表紙のデザインまで良かったら簡単に一目惚れして机まで持って行く。