米袋並みに重い学生鞄という持ち物が無いだけで、私の身体は尋常ではないほど身軽だった。

持ち物は家の鍵と、あの馬鹿げた栞だけ。

人っ子一人いない道を、スリップの可能性も考えずに夢中で自転車を走らせた。

がらんとした駐輪場に自転車を停めて、訳もなく急いで入り口へ走った。

ガラス扉の前で合羽を脱いで雨水を払う。

軽く払っただけなのに、おびただしい量の水滴が辺りに飛び散った。

私には用がない傘立てには、数本の物好きの傘がおさめられていて、床に小さな水たまりを作っている。

合羽を畳んで小脇に抱えてぐいと扉に体重をかける。

受付のお姉さんに妙に感心したような視線を向けられつつ、ずかずかと床を踏みしめて本棚に向かう。


彼は来るのだろうか。



勝手な憶測で思わず飛び出して来たけれど、これで会えなかったらとんだ無駄足だ。