彼はあれから来なかった。

待てども暮らせども、斜め向かいの席には誰もやって来なかった。

本と私の二人きり、今までもずっとそうだったはずなんだけれど。

どうにも落ち着かなくて、本を伏せた。

いやいや、真面目に読書しろよ自分。

こんな栞、駅前で配られるカラオケ店のビラほどの価値しかないはずだ。

ていうか一方的に押し付けられて、なんで私が窮屈な思いをしなくてはならないのか。

居ても立っても居られずに、ハンカチだけを持ってお手洗いに向かった。

冷たい水道水で軽く顔を洗って、鏡を見る。

いつも通りの平々凡々な顔面。違うのは頭の中だけ。



ああ、図書館って一体どんな場所だっただろうか。