公園に面した窓の、すぐ側の机。そこで、いつも本を読むことになっている。

先客が居ることは知っていた。




一年くらい前から、彼女はそこに座っている。




そういうと語弊を生むかもしれないが、とにかく毎日僕がこの机に来たときには彼女はもう窓を背に座っていて、僕が席を立ってもそのまま座っているのだ。

だから、彼女はずっとそこにいるようなものだ。

近くの公立高校の女子生徒だというのは制服で分かる。それ以上は何も知らない。一度も話しかけたことはない。

ただ、僕が読書の邪魔をしないようにそっと椅子を引いた途端に、彼女が一瞬視線を上げるというのが挨拶のようなものだ。

鞄を床に、本を机の上に置く。そして、眼鏡をかける。ついでにちらりと視線を落とすと、彼女が薄っぺらい洋書に取り組んでいるのが分かった。

辞書も無しに内容が分かっているのかどうなのか。まあ、そんなことを考えるのはさすがに野暮なので、僕は自分の読書を始める。

一瞬こちらを気に留めた彼女も、もう本の世界に浸かってしまっているらしい。



こうなると、図書館は完全な静寂だ。



ページをめくる音さえも、水中で水を掻いているかのように感じる。



この空間で、喋っているのは本だけだ。