高校生になって、学校の図書室という空間の意味が変わったと思う。

それまでは、ただ単に読書好きな子や、喋り声でうるさい教室が苦手な子が本を読みにやってくる場所だった。

かつて書棚から見つけ出した本を宝物のように積み重ねていた広い机には、今やフィクションでもノンフィクションでもない、ただ数式や暗記事項や文法といったつまらないものを吐き出す問題集や受験参考書がいっぱいに広げられている。

ページをめくる音ともいえない音の代わりに、何かに急き立てられているかのようにノート上を走るシャープペンシルの音や、ひそひそと隣り合って座った連れと何かを囁き合う声が耳に入るようになった。


私は、そこを図書室と呼べなくなった。


だから、私は毎日いまいましい授業が終わったとたんに、学校から自転車をとばす。

10分間、風を切りながらつまらないことは空気中に溶けていってしまう。

宿題が多くても、テストがやばくても、この自転車を止められない。

好きなことというのは、私の与り知らぬところで勝手に力を蓄えて行き、いつでも強く、私を動かしていってしまう。