「え〜。何3時からって!午前中からやれば早く終わるのにぃ」    
           
そんなことを先輩に言っても、どうにもならないとわかっていた。   
           
「ほんっとにゴメン!」
           
謝る幸輝を見て、   
           
「楽しみにしてたのにぃ」
先輩が悪いわけじゃないとわかっていながら、黙ってはいられなかった。
           
「部活なんだからしょうがないよね…」    
           
梨紗の言葉で、この話題は終わった。     
           
幸輝とバイバイして家に帰ってきた梨紗は、自分の部屋へ一直線に向かった。         
           
壁には買ったばかりの浴衣がかけてある。   
           
去年までは、姉のおさがりの浴衣を着ていたけど、大好きな人と行く初めての花火大会。    
バイト代で新しい浴衣を買っていた。     
           
淡いピンク色の浴衣を目の前にして、寂しさでいっぱいになった。   
           
その頃、幸輝だって気楽でいたわけではない。 
           
約束をした時の、嬉しそうな梨紗の顔が頭から離れず、悪いことをしたなという気持ちでいっぱいだった。