その頃、幸輝のほうも考え事をしていた。   
           
あの日、最後に梨紗が言った言葉は、幸輝の胸に響いていた。     
           
部活の時間には、体育館の入り口を見てしまうのが癖になっていた。  
           
今日も来ていない…。            
「最近、あの子来ないな。気になってるんだろ?」          
悠の問い掛けに、   
           
「別に…。水飲んでくる」          
幸輝はそっけなく答えて水道に向かった。   
           
バシャバシャと音を立てて、幸輝は顔を洗っていた。         
その時、       
「お疲れ様です!」  
梨紗の声がした。   
           
幸輝はすぐに顔をあげた。          
でも、そこに梨紗の姿はなかった。      
           
ここ何日か、梨紗の声が聞こえることがあった。
           
そこに、梨紗はいないのに……。