「知ってるよ。中村と同じ中学なんでしょ?」 
           
中村というのは、拓也のことだ。       
           
梨紗は、自分の名前を知っていてくれたことが本当に嬉しかった。   
           
小沢先輩がいつも一緒に練習している、2年の先輩が来るまで2人は、そこで話しをしていた。 
           
最初の緊張がウソのように、会話は弾んだ。  
           
少しだけ、先輩のことを知ることができた。  
           
梨紗達の地元の駅の、2つ先の駅から電車に乗って来ていること。   
2歳下の弟がいること。
『こうき』という名前は、『幸輝』と書くこと。
そして……彼女はいないということ。     
           
「なぁんか、いい感じじゃ〜ん」       
そう言いながら愛子が、純と一緒に歩いてくる。
           
「たまには私も寄ってみようかなぁ〜って思って来たら、2人が話してたからさ…。仲良さそうじゃん!」       
           
「けっこう話せたんだぁ。私の名前知っててくれたし!」       
少し照れながら、梨紗が答えた。       
           
           
梨紗と小沢先輩の、距離が縮まる確かなきっかけとなる出来事だった。