「兄貴のことなんだけど…最近様子が変なんだ。ボーッと考えてるっていうか、何かを思い出そうとしているような…」
           
「うん…それで?」
           
「もしかしたら…思い出すとしたら今なのかもしれないと思って。…兄貴と会ってみない?」
           
梨紗はしばらく黙っていた。

そして、ゆっくり話し出した。

「私ね、あの日幸輝にさよならしてから毎日が辛かった。悲しかった。何もする気にならなくて…ただただ泣いてた。具合も悪くなったの。それでも前に進むって決めて、側にいてくれる友達の力もあって、またいつも通りの生活を送れるようになったんだよ」
           
健司は黙って聞いていた。          
           
「今幸輝に会って、誰?とか言われたら…私また傷つくんだよね……」
           
あんな辛い思いはもうしたくなかった。