「先輩…殴っちゃったの?」         
           
「ううん。幸輝は殴ってない」        
           
「そっか」      
           
来月には、3年生最後の公式戦がある。梨紗が止めたのも、幸輝が出しかけた拳を引いたのも、理由はそこにあった。  
           
「で、お前は平気なの?」          

「え?あ。うん」   
           
良平が不思議に思うほど、いつも通りの梨紗だった。         
襲われた怖さと、幸輝の涙。さっきまで混乱していた気持ちが、今は落ち着いている。     
           
隣にいるのがこの人だからかもしれない。   
           
梨紗はチラッと良平の横顔を見た。      
           
「じゃあ、また明日」
           
そう言って良平は、家の中に入る梨紗を見届けてから帰っていった。  
           
ちゃんと家に帰れたことを報告しようと思って、幸輝に電話した。   
           
だけど電話に出ない…。
           
『話したいから連絡待ってる』とメールを入れた。