すると、私からわずか数ミリ離れたところでくちばしが止まる。

 この鷲、目が見えてないみたい……。

 けれど、鋭いくちばしはわずかでも動くと、私の腹に刺さってしまいそうだ。

 タラリ、と冷や汗が背を伝う。

 鷲は私を匂いでしか判別できなかったのか、顔を離した。

 
「お前は、この主のいけにえになるんだ」


 え──?

 時が止まったかと思った。

 私が、このバケモノのいけにえに──?

 心臓が握り潰された感覚に陥った。

 声が──出ない。

 
「お前たち──何のつもりだ。なぜ、クレアを狙う!」


 バサリと翼が羽ばたき、魔法使いたちにも聞こえるくらい力を強めたショウが唸った。

 その声に、正気を僅かに取り戻す。

 私はバケモノ退治をしに来たのだ。

 なのに、この状況はなんだ。

 盗賊たちが、私を囲んだかと思えば、彼らの主に私を差し出すと言う。

 その主とは……この生き物が例のバケモノで間違い無いだろう。

 しかし、この男たちはなぜこのバケモノに従っているのか……。


「なぜ、あなたたちは、これを主と定めるの?」

「主が強いお方だからさ。そのお力で我らを庇護してくれる」


 剣を構えたものが、得意げに言った。

 なるほど、このバケモノは確かに強そうだ。

 この見た目では、初めて見たものは即座に逃げ出すだろう。

 盗賊側はそこをうまく、活用していると言うわけだ。

 そして、バケモノ側の利点は……。

 
「主は、魔力を持つ者を食べないと、生きていない。しかも、魔力が強いものほど、長持ちするんだ」


 剣を構えた魔法使いが言った。

 彼の声は、震えている。

 この人たち……あのバケモノを主とかいっているけど、心の底は怯えている──。

 そう、直感で感じた。