「あ……。」
「どうしたの?」
俯いてスティックを鞄にしまう。
「よく濡れてるね。」
「……すいません。」
「別に謝らなくても。」
苦笑いで私を見る彰人さん。
大きい黒の傘が切なげにぼやける。
「……すいません。」
「困ったな。」
彰人さんは私の前にしゃがんだ。
傘を放って、私の眼を見た。
「濡れますよ……?」
「それは涼香ちゃんもでしょ。」
「…………。」
そうだ、私は濡れている。
身体も、頬も、心も……。
彰人さんはジャケットを脱いだ。
そして私に被せてくれると
優しく上から抱き締めてくれた。
「……これで、寒くない?」
「…………。」
驚いたわけじゃない。
けれど、動けなかった。