「……あのさ、何か弾いてみてよ!ギターの曲。」
「え?私今日見学……。」
「どうぞっ!」

キラキラした目で見つめられると何もいえない。

「あ、あの、下手ですけど宜しくお願いします……。えっと、SAKIの未来……。」

Gのコードから始まるこの曲は、私が初めて弾いた曲だった。歌本を初めて買って、それに載っていた思い出の曲。中一の時だった。中一の秋、先輩たちのバンド演奏に惹かれて、私も一生懸命練習した。

「声が聞こえる 君の声だと思って歩みを止めなかったんだよ 声のする方へただひたすら私は走っていった……」

一番だけで良いかなと思って、私は演奏を止めた。

「聞いた事ないけど、良い曲だね~!凄いよ、こんなの知ってるなんて。」
「歌も上手だった!ねえ、SAKIみたいにやりたくない?」
「え……?」

思い浮かべてみた。SAKIのライブの風景を。沢山のファンに囲まれて演奏するSAKIに憧れた。ギターをやりたいと思った心が、また強くくすぶった。
そんなのを、やれるの―――――……?
夢だった世界。夢だった世界観。それに近付ける。

「やり、たいです、やりたい……。」

小声だけど確実に。

「宜しく、お願いします……!」

私の夢は、始まっていた。

「いらっしゃい、涼香ちゃん!」

ありがとう。

皆にそう伝えてほしい。

口では照れ臭くて、言えないから……。