鼓動が速まり、心臓が痛い。

わたしは九条が立っているドアを凝視して、動けなくなる。

震えているのが分かった。



緊張してしまう私を変に思った鳴海は、
私に耳打ちをする。


「瀬奈、九条来たけど…」


「…う、ん」


ぎこちない笑顔で鳴海を見る。
たぶん、引きつってた。



春休みの間ずっと考えてたことがある。


もし、クラスが一緒だったら……
もし、席が隣だったら……
もし、彼女が出来てしまったら……


諦めるって思ってるんだから、
彼女が出来ていても私にはきっともう
関係なくなるんだろうな……



辛い、辛い、辛い。


もうあの頃のようには笑えない。
九条が教室にいる限り、
私はもうちゃんと笑えない。



鳴海、どうしたらいい?


中学の頃は、甘くて切なかった。



こんなの今はただ切ないだけじゃない

どうして九条は、平気な顔してるの?



すると、九条は私達の顔を少しだけチラッと見ると黒板に移動してしまう。


私たちは、席で話しているから、もうじき九条は私達のとこに来てしまう。



そんなの、耐えらんない。



私はとっさに鳴海の腕を掴んで、
廊下まで引っ張る。



「瀬奈っ!?」


びっくりした様子で私を見ている鳴海。



「瀬奈、どうし…」


私は鳴海をどういう顔で見たんだろう
きっと泣きそうな顔だったんだろう。



「…ごめん、ちょっといろいろ!
時間まで校舎の中まわろうよ」



こんなことで逃げるなんて


「…うん、分かった。いいよ」



まだ、まだ九条の顔は見たくない。



鳴海ごめん。騙して。



本当はね、私今すごい辛くて、
教室にいたらきっと泣いちゃうから



こんな弱くて、ごめん…………