「言えない」
片思いってだけで感じる幸せ。我ながら自分勝手だなと思いながらも、それを壊してまで踏み込めない弱い自分を情けなく思う。喧嘩したり笑ったりそこにいるのが当たり前のような空気感。過ぎた時間が長くなるほど怖くなる。最近は、積み重なったそれが背中を押す。伝えるべきか。
「次のバスしばらくこないよ。どっかで時間潰す? って聞いてんの?」
時刻表を見ていた佐伯が不満気に言った。
「え? ああ、でもさ、どっかでって言ってもこの辺なんもないじゃん」 と返すと佐伯は「知ってる。言ってみただけ」と言ってバス停の青いプラスチックの椅子にどかっと腰をおろした。毎日乗っているのでこの時間バスがないことも近くに時間を潰せるような店がないことも僕らは知っている。
街灯が灯り、線香花火みたいな太陽はもうすぐ落ちそうになっていた。
佐伯の横に腰をおろす。
「大体さ、お前がペンケース忘れたとか言ってっから乗り遅れんじゃん。最近忘れ物多くない? この間バックごと学校に置いてきてたし。馬鹿じゃん」
眉間にシワをよせながら佐伯が言う。
「ごめん・・・・・・疲れてんのかな」と笑って返すとふーんって言って少し間をあけてから「嘘ついてる。お前分かりやすいもん」と得意気な顔をしながら言った。
「なんもないよ。あ、あそこ、一番星」と、はぐらかしたもののその後しばらく、何に悩んでんの? 何かあったの? と佐伯からの質問攻めにあった。芸能レポーターみたいにマイクを向けるような仕草をしながらひと通りやり尽くすと飽きたのか、急に静かになった。
小さくため息をついてから「まぁね、世の中めんどい事もあるからね・・・・・・」と佐伯は椅子にもたれて伸びをした。
「・・・・・・お前だから言うけどさ、あたし告白されちゃった」
佐伯の言葉に自分の耳を疑った。「マジで?」と反射的に返してしまう。心臓がどくんと跳ねる。
「マジで」
佐伯は伸びをしたままの姿勢で空を見上げていた。頭の中がゴチャゴチャしてきて返す言葉がでてこない。
高校に入学した時、バス停が一緒って事で話すようになってから今日まで、一年のほとんどを一緒に過ごしてきた。男友達みたいに佐伯は何でも本音で話してくれた。良いとか悪いとか、好きとか嫌いとかはっきりしているので僕も本音で話すようになった。喧嘩する事も多かったけど、僕はその裏表のなさをすぐに好きになった。男勝りな性格のなかで時折みせる女の子の弱さに僕はすっかりやられてしまった。普段は誰が相手でも強気なくせに小さい事を気にしたり、気に入らない事があると所構わず僕の手を引っ張って何で? って問いただしたりする佐伯の事で頭の中がいっぱいになるのに時間はかからなかった。
「気になる?」
佐伯は背伸びしていた体を僕の方へ向ける。
「・・・・・・そりゃあ・・・・・・気になるよね」
心臓の動きがさらに速くなる。
「どうしたらいいと思う?」
「・・・・・・幸せになれる方を選ぶといいと思う。佐伯だから言うけどさ、佐伯が誰かと付き合うのって何か嫌だ」
「なんで?」
「・・・・・・何となく・・・・・・」
制服のスカートの裾を掴んでぱたぱたさせながら佐伯は「ふーん・・・・・・ふーん」と何度か繰り返していた。
そうこうしている内に「バス来たよ!」と言って立ち上がった佐伯に手を引かれて僕はバスに乗った。
片思いってだけで感じる幸せ。我ながら自分勝手だなと思いながらも、それを壊してまで踏み込めない弱い自分を情けなく思う。喧嘩したり笑ったりそこにいるのが当たり前のような空気感。過ぎた時間が長くなるほど怖くなる。最近は、積み重なったそれが背中を押す。伝えるべきか。
「次のバスしばらくこないよ。どっかで時間潰す? って聞いてんの?」
時刻表を見ていた佐伯が不満気に言った。
「え? ああ、でもさ、どっかでって言ってもこの辺なんもないじゃん」 と返すと佐伯は「知ってる。言ってみただけ」と言ってバス停の青いプラスチックの椅子にどかっと腰をおろした。毎日乗っているのでこの時間バスがないことも近くに時間を潰せるような店がないことも僕らは知っている。
街灯が灯り、線香花火みたいな太陽はもうすぐ落ちそうになっていた。
佐伯の横に腰をおろす。
「大体さ、お前がペンケース忘れたとか言ってっから乗り遅れんじゃん。最近忘れ物多くない? この間バックごと学校に置いてきてたし。馬鹿じゃん」
眉間にシワをよせながら佐伯が言う。
「ごめん・・・・・・疲れてんのかな」と笑って返すとふーんって言って少し間をあけてから「嘘ついてる。お前分かりやすいもん」と得意気な顔をしながら言った。
「なんもないよ。あ、あそこ、一番星」と、はぐらかしたもののその後しばらく、何に悩んでんの? 何かあったの? と佐伯からの質問攻めにあった。芸能レポーターみたいにマイクを向けるような仕草をしながらひと通りやり尽くすと飽きたのか、急に静かになった。
小さくため息をついてから「まぁね、世の中めんどい事もあるからね・・・・・・」と佐伯は椅子にもたれて伸びをした。
「・・・・・・お前だから言うけどさ、あたし告白されちゃった」
佐伯の言葉に自分の耳を疑った。「マジで?」と反射的に返してしまう。心臓がどくんと跳ねる。
「マジで」
佐伯は伸びをしたままの姿勢で空を見上げていた。頭の中がゴチャゴチャしてきて返す言葉がでてこない。
高校に入学した時、バス停が一緒って事で話すようになってから今日まで、一年のほとんどを一緒に過ごしてきた。男友達みたいに佐伯は何でも本音で話してくれた。良いとか悪いとか、好きとか嫌いとかはっきりしているので僕も本音で話すようになった。喧嘩する事も多かったけど、僕はその裏表のなさをすぐに好きになった。男勝りな性格のなかで時折みせる女の子の弱さに僕はすっかりやられてしまった。普段は誰が相手でも強気なくせに小さい事を気にしたり、気に入らない事があると所構わず僕の手を引っ張って何で? って問いただしたりする佐伯の事で頭の中がいっぱいになるのに時間はかからなかった。
「気になる?」
佐伯は背伸びしていた体を僕の方へ向ける。
「・・・・・・そりゃあ・・・・・・気になるよね」
心臓の動きがさらに速くなる。
「どうしたらいいと思う?」
「・・・・・・幸せになれる方を選ぶといいと思う。佐伯だから言うけどさ、佐伯が誰かと付き合うのって何か嫌だ」
「なんで?」
「・・・・・・何となく・・・・・・」
制服のスカートの裾を掴んでぱたぱたさせながら佐伯は「ふーん・・・・・・ふーん」と何度か繰り返していた。
そうこうしている内に「バス来たよ!」と言って立ち上がった佐伯に手を引かれて僕はバスに乗った。