解決しない事もあるのかな。
悲しみに明け暮れる毎日。
涙はでないけど、心は壊れてた。
涙は、あれきり出せなくなっていた。
馬鹿だね、アタシ。
今だって一人じゃ何も出来ない。
本当、馬鹿。

「……谷口?」
「あ、うん。何?」
「皆サボって帰っちゃったんだから、お前と俺だけなんだぞ?文化祭の準備。夏休み潰して来たくないだろ?」
「あ、うん。」
「さっきからそればっかだし。」
「あ、ごめん。」
「…………。」

言葉のキャッチボールが出来ない。
脱力感に襲われて、息も面倒。
だめだなぁ、アタシ。

「何かあった?村山と。」
「……別に。」
「嘘だ。お前それの時しかアップダウン激しくなんないもん。あとは人並み。だから分かりやすいんだよ。」

高橋の言葉は、アタシの心を通り過ぎるように抜けてしまった。
だって、宗助は気付いてくれなかった。
分かりやすくて良いから、気付いてほしかった。
甘えがあったんだよ。
宗助に甘えたいって、独占欲。
それっていけないのかな?
誰も、答えてくれないんだ。
だから……。

「宗助が、離れていく気がして。」
「……え?」

高橋。
アンタを信じても、良いのかな?

でも多分、誰よりも。
この人は支えになってくれるって
そう思ってたのかもしれない。


アタシには、二人必要だった。

一人は愛しい人。

あと一人は、高橋。

それが一人いなくなるだけで、

アタシは壊れる。

そんな気がしていた。


五月雨。

もう季節じゃないけれど。

いつも心に降る雨は五月雨のように冷たくて。

だから、君の力が必要だったのかな?

降り続く雨に

濡れるアタシに

傘を差してくれるような。

「谷口、大丈夫かよ?」
「うん、もう、話したらスッキリしたから。」

涙が溢れて、高橋に泣き付いた。
弱くてごめん。今だけは見ていてほしかった。

「そうには見えない。」
「本当に、有り難う。もう、平気……。」
「……るなよ。」
「え?」

高橋が何か言いかけたから、アタシは顔を見てもう一度確認したんだ。
でも、アンタはもう言ってくれなかった。
言葉を知るのは、もうちょっと、先の話。
もっと悲しい、アタシの恋があってからだ。

「今度文化祭じゃん?開会式、何かやる?」
「開会式?」
「ほら、去年先輩たちがバンドとかやってたじゃん。」

高橋の提案はアタシを気遣ってか綿密に計画してあって驚いた。
アンタは、予想以上にアタシを支えてくれた。
可愛くなんかないし、凄く優しいわけでもない。
どちらかといえば、可愛げのないワガママな女子。
そのはずなのに、アンタはいつも優しかったね。
今でも、目に焼きつくアンタの笑顔は、凄く大切なアタシの宝物だった。

「……ということで、俺たちはフォトミュージアムをやろう!!」
「フォトミュージアム?何それ?」

柳も、紗江も、美玖も、宗助も、友香も。
皆キョトンとした眼でアタシ達を見た。
一眼レフカメラを写真部の子から借りて、フイルムを買って写真を撮った。
高橋と二人で撮りためた思い出たち。
それは路地裏だったり、皆の休み時間の風景だったり、八百屋のおじさんだったり。優しさに溢れるようなもの。

「そこで、これで作ってほしいんだよ、柳。」
「は、俺?」
「パソコン得意だろ?」
「そうだけど、何すればいいんだよ?」
「それはな……。」

高橋は監督として、アタシはライターとして、柳は編集、他の人たちは朗読や裏方。
そんなこんなで、文化祭はやってきた。

「……遥。」
「何?」

もう、宗助の事は気にしないことにした。
近いけど、遠距離恋愛。
だから関係を保っていられた。
ずっと、話す事は減って、友香にすっかり越されたけど。
友香は笑っていて、紗江は同情してかばってくれて。
アタシは幸せだったんだよ?

「……何でもない。」
「そ。ねえ、始まるよ。」
「……うん。」
「頑張ってよ?」
「うん。」

アタシはまだ、気付いていなかった。
もっと悲しい事があるなんて、知らないで笑っていたんだ……。


一つ一つ、BGMが流れながら流れるその映像は、アタシと高橋だけじゃない、皆との思い出だった。

「いつまでも笑っていたい。いつまでもこのままの町でいたい。そんな気持ちが折り重なる幸福。」

皆がそれぞれの台本を読む。
発表は好評だった。
バンドに勝って有志一位を獲得。
皆の、いい思い出になった。

「……有り難う。」
「ん?」
「元気なかったせいでしょ?アタシが。」

舞台裏。片付けのときに言った。
高橋への、照れ隠しを込めて。

「……はは、何勘違いしてるの。お前は自分中心に考えすぎ。」

アンタは軽く笑ってごまかした。
いや、アタシの思い過ごしか。
皆と、交流を持たせて元気付けてくれた。
そう思ったのは、本当に錯覚?

「ほら、俺たちのグループは本祭でもあるんだからな、活動。」
「…………うん。」

ねえ、教えて?


「いらっしゃいませ~。」
「バンドショーやってます!!」

アタシ達は必死に廊下で宣伝。
アタシは美玖と同じグループ。

「美玖、お腹減らない?」
「減ったぁ~。」
「後でさ、ちょっと抜けない?」
「良いよ~。」

美玖の売り込みはあっさりしてるから皆通り過ぎていく。
下手すると立ってるだけの時もある。
まあ、見てて面白いけど。

「……終わった?さっきのバンドでシフト交代なんだけど。」
「うん、良いよ。中で涼めば?それか遊び行くんだろ、どうせ。」
「あ、バレてた?」
「当然。」
「んなわけで、行ってきます!」
「へいへい。」

何となく見せた高橋と柳の表情は達成感でいっぱいだった。

「美玖、行こ。」
「よぉし!!」

あとは、後夜祭が待っている。

事件は、そこで起こってしまった。

ねえ、アイツは、アンタは。

いったい何を思っているの?


「今年もやってまいりました皆さん大好き!!」
『後夜祭!!』

司会のハイテンションなムードに体育館が包まれる。
今年もやるという、『恋冠』というコーナー。
好きな人に冠の二つ付いたストラップを渡す。
それを受け取った相手は自分のをあげたらOK、あげなかったら失敗となる。
ちょっとシュールな恒例行事。
モテる人とかはいくつもストラップを持っている。
その姿はお見舞いに貰った千羽鶴に似ている。

「今回のミス高校は~?誰だぁ!?」
『3・2・1!!』

“パァン!!”

クラッカーが鳴り響く。
紙吹雪が髪の毛に纏わり付くけど、受賞者は涙を流したりにこやかでいたり様々。
卒業までずっと言われるから人気のコーナーだった。

「……のにな。」
「え?」
「ううん、何でも。」

最近高橋は言いかけてやめる。
それがなんともじれったくて最近イラつく事が多い。

「では、恒例の~?」
『恋冠!!』

皆がいっせいに立ち上がる。
見ていると凄い黒山の人だかり。
まあ、金も時々。
何だか熱気に包まれて熱い体育館の隅に皆で逃げた。
いつもアタシはこういう行事を避けている。

「付き合い立てカップル発見!!」

そう、こういう風に騒がれたくなかった。
だから、逃げてたんだと思う。
今年も、宗助には渡さない。
逃げじゃない。
そう信じたい。

「…………。」

でも、騒がれない方法をこのとき思いついた。
多分上手く行けばアイツだけに伝わる言葉。
帰りにやってみよう。

君に、けして気付かれぬように。


「今年も、有難うございました!!」

これでお開き。
何となく空気に疲れて座り込んでいた。

「谷口……。」
「?」

高橋の声に反応して振り向く。
例の千羽鶴状態の高橋は顔色が悪い。

「モテモテじゃん。」
「良くないんだよ、皆フッたし。」
「え~、もったいない。」
「だって別に好きじゃね~もん。」
「うわ、贅沢者。」
「すいやせんね。」

少し高橋の顔が明るくなって安心した。

「谷口。」
「また、今度は……。」

“ジャラジャラッ。”

沢山の王冠ストラップがアタシの持っていた紙袋に入れられる。
わけが分からず、アタシは高橋の顔をずっと見ていた……。