心配そうに声をかけてきた人の顔を、真っ直ぐに見つめる。
「ゆ、柚希くん……?」
「うん、俺ですが?」
「……よかった、柚希くんだっ……」
彼の手をギューッと握りしめる。
……大丈夫。
ちゃんと居る。
柚希くんがここに居る。
「全然見つからなくてっ……電話も、圏外になっちゃってて……!!」
「悪い、ちょっとホームに戻ったんだ」
「……え? ホームに……?」
みんな外に向かって歩いてたのに、どうしてホームに……?
「俺、売店の袋を無くしちゃったんだ」
「……飲み物の、袋……?」
「うん、ペットボトル2本。 柳井と繋いでた逆の手でしっかり持ってたんだけど、急に後ろに引っ張られて手が離れたんだよ」
そっか。
柚希くんが駅から出てこなかったのは、
その袋を探していたからなんだ……。
「あの感触だと多分誰かが持っていったと思う。 探したけど見つからないってことは、この混雑を利用した窃盗事件だな」
「そ、か……」
「ごめんな、せっかく柳井が買ってくれたのに」
「ううん、いいの。 柚希くんが無事でよかったよ」
飲み物は無くなっちゃったけど、柚希くんとは ちゃんと会えてよかった。
もう、それだけで十分だよ。