「――やめなよ、その子嫌がってんじゃん」
後ろから声がした。
「おっ、君も可愛いねー」
男の人は私から手を離し、声をかけた人の方に歩いていく。
可愛いってことは……女子……?
「今よ! 早く! 走るよ!!」
そう言ってその子は私の腕を引っ張り、走り出した。
その子は髪が腰まで伸びていて、微かに花の甘い香りがした。
「……もうあいつら、着いてきてないわね。あなた大丈夫?」
「あ……はぃ……だいじょ――」
その瞬間、私は足の力が抜けて地面に座りこんでしまった。
「あ……」
今になって体の震えが……。
「……やっぱりね。大丈夫なわけないじゃない。ほら、……立てる?」
その子は座り込んでいる私に手を差し伸べてきた。
「……うん……」
その子の手はとても暖かくて安心できた。
「……じゃあ、あなたの家まで送ってくよ、また危ない目にあったら嫌だし」
そう言ってその子は私の家まで送ってくれた。
「……じゃ、またね。これからは気をつけてね」
そう言ってその子はさっききた道を戻っていった。私はその子に向かって叫んだ。
「……たっ、助けてくれてありがとーー!!」
月曜日。私はまだ一昨々日の事を考えていた。
あの子、勇気あるなー……。
嫌なのに断れなくて、自分の意見を言えない私とは大違い。
あ……名前、聞くの忘れてたな……。
そう考えていたら、私の席の前に花梨達がきた。
「やーよーいっ、昨日どうだった? わざわざ紹介してやったんだからねー、感謝しなさいよ?」
そう言って花梨達はクスクスと笑っている。
なによ……私をあの人達に売ったくせに……!!!
すると、担任の先生が教室に入ってきた。
「席つけー、HR始めるぞー。今日は転校生を紹介する。さ、入ってきて」
「初めまして、隣町から引っ越してきた多田 麻李華(ただ まりか)です。よろしくお願いします」
あの人――!!
「多田の席は……古都の前だな」
わわわっ……こっちにくる……っ!
「あっ、あのっ……!」
「……あれ? あなた……一昨々日の!! ここの学校だったの!?」
「うん! 私、古都 弥生! よろしくね!!」
そして給食の時間。私は多田さんと一緒に中庭に行って一緒に弁当を食べた。
「あっ、古都さんの卵焼き美味しそう! 1つ食べていい?」
「うん、いいよ! ……あとさ、弥生でいいよ」
「うん! あたしも麻李華でいいよ!」
麻李華と話していると、誰かが遠くの方から3人来た。
「弥生ーっ! やっと見つけたー!」
遠くから来たのは、花梨達だった。
「なに……?」
「この宿題、やっといてくんない? ……拒否権なんてあんたにないけどね」
――!!??
私にプリントを渡した後、花梨は耳元でそう言ってきた。
「んじゃ、任せたよー!」
花梨達はそう言って走っていった。
「弥生……今の子達って……? ……まさか弥生、いじ――」
「今の子達は、友達だよっ! あっ、もうすぐ授業始まるよ!」
そう言って私は麻李華の腕を引っ張り、教室へ走った。
……『花梨達は友達』なんて、嘘。
やっとできた友達……麻李華には、いじめられてる事を知られたくない……!!
心配されたり迷惑をかけたくない思いでいっぱいだった。
ある日、私は家で花梨達の宿題をやった後、麻李華にメールした。すると、いつも通りの楽しい話をしていたのに、いきなり話が変わった。
『ねぇ弥生、本当の事を言って?
弥生、あの3人にいじめられてるよね?
私達親友でしょ?私が何とかしてあげるからさ!』
「…………っふ……」
私の頬に涙がつうっと流れた。
“親友”……。
私の、初めての親友……。
私は涙が止まらなくて、気づけば朝になっていた。麻李華に返信する事も忘れていた。
朝はなかなか人が来ない自分のクラスの教室に行って麻李華に話しかけた。
「麻李華っ、昨日返信できなくてごめんね! ……花梨達にいじめられてる事、本当なんだ……」
麻李華は私の腕を掴み、教室を出てトイレに連れて行った。
「……そうだったんだ……。それって、いつぐらいから?」
「去年から……」
「随分前からなんだね……どんな事されたの? 言いたくなかったら言わなくていいよ?」
「靴に画鋲入れられたり、靴隠されたり、机に落書きされたり、物隠されたり……」
「……他には?」
「花梨達に水責めされたりトイレで個室に入ってる時に上からトイレの水が入ったバケツかけられたり、足引っかけられたり蹴られたり、あと……」
「今は奴隷にされてる……」
「じゃあ……この前の男の人達の時も……?」
「うん……」
私は下を向いていた目を麻李華の方に向けると、なんと麻李華が涙を流していたのだ。
「ちょ……なんで麻李華が泣いてるの……??」
「だって……こんな酷い事されてるのに、1人で耐えてたなんて……私はなにも力になれなくて……っ」
「……でも今日からは違うからね! どんな手を使ってでも私が弥生を守ってみせるから!」
麻李華はそう言って両手でこぶしを作って気合いを入れてるように見せた。
「さっ、戻ろ! 弥生」
私達は教室に戻ってそれぞれの席についた。
3時間目が終わった後の休み時間に、麻李華と話していた。
「あっ弥生、私先生に仕事頼まれてたからやってくるね! 終わったらまた話そう!」
そう言って麻李華は教室を出ていった。
麻李華って、ホントにいい人だよね……。
勉強も運動もできちゃうし、性格もいいし……。
麻李華が私の親友でよかった♪
そう思いながら次の授業の準備をしてると、私の前に花梨達がきた。
「弥生ーうちら最近お金がピンチでさー、だから1万円くれない? あんたお金持ちでしょー?」
そう行って伊織は机の横に掛けてある私の鞄から財布を取りだし、中身を取り出そうとしたその時だった。