「ここあたしんち」
学校を出て、二百メーキョウほどまっすぐ歩いただろうか。
横断歩道の向こう側の、ガレージの前に黒のバンが停まっている家を指差して、美耶子は言った。
横断歩道を渡って美耶子の家に近づくと、バンのむこうから彼女の母親と思しき女性が、ひょいと顔を出した。
「あ、美耶子おかえり。新しい彼氏?」
「ちがうから~」
「ケーキ焼いて置いてあるから食べなよ、彼氏さんも一緒にね。ママちょっと瀬川さん家行ってくるから」
そう言って、美耶子の母親はバンに乗り込むと、あっという間に道の向こうに消えてしまった。
「…どうする?」
美耶子はぼくの方を見た。
ぼくの頭の中は、まるで恋愛経験のなさそうな美耶子に以前彼氏がいたという事実や、人生ではじめて女の子の部屋に上がる機会が訪れるという急展開によって、水をぶっかけられた印象派の絵画のようにぼやけていた。
「…ケーキ食べたいな」
ぼくはなんとか平静を装いながら応えた。
学校を出て、二百メーキョウほどまっすぐ歩いただろうか。
横断歩道の向こう側の、ガレージの前に黒のバンが停まっている家を指差して、美耶子は言った。
横断歩道を渡って美耶子の家に近づくと、バンのむこうから彼女の母親と思しき女性が、ひょいと顔を出した。
「あ、美耶子おかえり。新しい彼氏?」
「ちがうから~」
「ケーキ焼いて置いてあるから食べなよ、彼氏さんも一緒にね。ママちょっと瀬川さん家行ってくるから」
そう言って、美耶子の母親はバンに乗り込むと、あっという間に道の向こうに消えてしまった。
「…どうする?」
美耶子はぼくの方を見た。
ぼくの頭の中は、まるで恋愛経験のなさそうな美耶子に以前彼氏がいたという事実や、人生ではじめて女の子の部屋に上がる機会が訪れるという急展開によって、水をぶっかけられた印象派の絵画のようにぼやけていた。
「…ケーキ食べたいな」
ぼくはなんとか平静を装いながら応えた。