ーーーザバーン
磯の匂いと太陽の匂いが混じった心地よい匂いが私の鼻をかすめる。
「とりあえずここ座りぃや」
ポンポン、と階段を叩く茶髪野郎。
素直にそれに従って、私は腰を下ろす。
「ん〜まあ、ちょっと隣失礼するでな」
私が座っている段の空いている狭い隣に座る。
『…なあ。何で浩太の事知っとるん?』
「んー俺が初めてあいつに会うたんは、あいつが小5ん時やったかな…。
あいつどえらいふてこいし口悪りぃし誰やねんこいつ、とか思とったんやけど話すとええ奴でな、お前の事もいっぱい喋ってくれたんや」
浩太が…唯の事…
「んまあ、そうゆう経緯でお前の事知ったんやけど、俺実際お前が小6ん時会うたでな」
『は?』
「何かなぁ、学校帰りにいつも溜まっとる連れん家があってな、そこにあいつがお前連れて来たんやで。覚えてへん?」
『あ…』
1回だけ浩太が連れてってくれた…
唯と会ってへん時何しとるか知っといてほしいから、って……
「思い出した?そん時に俺もおったんやけどな〜」
苦笑いでポリポリと後頭部をかく茶髪野郎。
「まあ、別にそこはええんやけど。
でもな、その半年後ぐらいからあんなに幸せそうな顔で話してくれとったお前の話を全くせんくなって、
気になって浩太に聞いたらな、俺が全部悪いんや、唯は何も悪ないのに俺があんな顔させてしもとるんや、って泣いててんで」
もう、気付いたら私の目から大量に涙が溢れ出ていた。
「せやし、ちゃんと話しせぇやってゆうたんやけどな…」
そうボソッと呟いた。
『でも浩太は何も悪ない…。唯があんな事ゆうたから…浩太は笑わんくなったんや…。やから唯は…』
“あんな事”ーーーー
ーーーーーー「俺な、実は卒業したら転校するんや」
『は?』
「せやけどな、俺唯とはこのまま続けたい」
『そんなん……』
……浩太に向こうで新しく好きな人できて別れよってゆわれるん耐えれへん……
『そんなんやったら別れた方がマシや…。浩太何もわかってへん…。未来なんか誰にもわからへんねやから…』
「そか……悪かったな…」
その日から浩太の顔から笑顔が消えて荒れ狂う毎日だった。
浩太の全てを奪ったのは私。
浩太のクシャッと可愛らしい笑顔を奪ったのは私。
そんな浩太を見てたら私も笑えなくなった。
感情も薄っぺらくなっていって、いつしか“くだらない人生”としか思わなかった。