大好きな人に囲まれて送る、平和な毎日。

朝起きてから夜眠るまで、不安に思う事は何もない。


『今日は恋の山菜採りを手伝いに行ってー…そうや!夜は流に隠れ身の術を教えて貰おう。』


天気も良い、初夏に吹く風がいつも以上に気持ち良く感じられる。


ふと部屋から外を見ると、僅かに開いた障子の隙間から木の上に佇む流の姿が見えた。


『あ…なーがれ!』


障子を広く開け、両手を振って流を呼ぶ。

『なーがれ、今ヒマー?』

返事はないものの、こちらに気付いた様子で華麗に木の上から移動を開始する。

黒衣を纏うその姿は、いつ見てもカッコイイ。


すらりとした隠密向きの体型、身長は葵よりも高く、黒い髪は前髪の長さが左右違う。切れ長の瞳は感情を宿していないかの様な冷たさを感じる時もあるが…それがまた、隠密らしい『陰』のような気がして堪らない。

顔の下半分が黒い布で覆われているから、余計表情が読めないと言うのもあるんやけど…


……そうか。顔。


『…お呼びですか、奏様。』

流が窓の近くまでやって来る。

『呼んだ!あんな、流の顔が見たいなおもて!』

『……はあ。では、此れでご満足頂けたでしょうか。』

流は目の前に立ったまま、微動だにしない。

『んー、そうやなくて!流はいつも顔半分隠してるから、全部…全顔見たいなって!』

俺の言葉に、珍しく流が目を丸くする。


『顔、ですか。』

『そう!顔。結構気になってるんやで、「流は今どんな気持ちなんやろー」って。顔隠してたら、表情読めへんやん?』

流の顔が見たい。
本人を目の前にしたら益々その気持ちが強くなり、思わず身体が前のめりになる。

『…分かりました。そこまで仰るなら、お見せしましょう。』

窓からはみ出そうな身体を流が優しく押し戻し、諦めたように小さく息を吐いた。

『え…えー⁉︎ホンマに?やったー!』


ついに、流の素顔が見られる。
そう思ったら、自然と頬が緩んだ。

『…喜ぶほど、大層なモノではないですよ。』


そう言いながら指先を顔を覆う黒い布へと引っ掛け、顎先の方までずらす流。






『………え、めっちゃかっこえぇ!』





黒い仮面の下から現れた涼し気な面立ちの素顔に、思わず声を上げた。


凄い、凄い!身長高くて運動能力が高くて顔まで整ってるなんて…女子にモテモテ間違いなしやん!


『…今度は、ご満足頂けましたか?』

『うんうん!カッコ良くて運動出来て…益々忍者になりたくなったわ!』

『有り難きお言葉。…それでは奏様に、忍者になるための練習法を一つお伝えしましょう。』


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