朝餉の時間を終えると、休む間も無く葵の授業が始まる。

今日はなんやっけ…あ、そうだ。確か帝王学とか言ってたような。

『…では、早速始めましょうか。今日は帝王学でしたね。』

数冊の本を手に、葵が俺の斜め前に座る。

『国を治める王にとって必要なのは、国の未来を予測し導く事の出来る指導力と決断力です。一口に指導力と言っても』


シャクシャク


『気に食わない者や反乱者を力だけで押さえ付けたり、周りの意見を蔑ろにするようではいけません。何故そうしたのか
、どんな考えで動いたのか』


シャクシャクシャクシャク


『……評価すべき働きは認め、奏様自ら褒めて差し上げることが臣下のやる気や信頼に』


シャクシャクシャクシャクシャクシャクシャクシャク


…なんやさっかから、葵の言葉の合間に美味しそうな音が聞こえる。

なんなら、スイカのような甘い香りまで漂って来る。


『……ちょっと失礼。』


不意に葵が立ち上がり、部屋の壁に掛けられている槍を手に天井を見つめる。

…そして





ダンッ!





勢い良く天井を槍で突いた。


『えぇぇー⁉︎葵、どないしたん?』

『いえ…ちょっと鼠が居るようなので。』

そう言いながら、未だ天井と向き合ったままの葵。その視線を辿るように、俺も槍で出来た穴を見上げる。


…シャクシャクシャクシャク…ペッ



不意に穴から、スイカの種と思わしき黒い粒が落ちてきた。

え…何かおる?

『…成程、行儀の悪い大鼠が潜んでいるようですね。』


天井を見つめた侭の葵は、いつも以上に冷たい表情で繰り返し天井を突く。
何度か突かれた部分には掌2枚分程の穴が開き、そこから見慣れた黒い影が顔を覗かせた。


『あっ!…え⁉︎流?ちょ、葵待って待って‼︎鼠やなくて、流やで!』

『…いえ、あれは鼠です奏様。大きくて忌々しい、鼠です。』


急いで立ち上がり葵の袖を引っ張ってみるも、葵の表情が変わることは無く流が居そうな辺りを無心で突いている。

そうして開いた穴から、今度はスイカの種が飛んできて……



なんや、このカオス。


『2人とも!落ち着いて‼︎』



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結局、事態が収拾したのは勉強の時間が終わる頃だった。