フタリキリ、と私は心の中でその言葉を繰り返した。



「ねー!先生羨ましい〜」




その隣に腰掛けてた女の子も、唇を尖らせて言う。




「告っちゃえばいいじゃん、カナ!」




どうやら怪我した女子生徒の名前は、カナというらしい。



可愛らしい名前に若干羨ましい気持ちになりながらも、私は手を動かす。



「でも蓮くん女の子に興味ないって感じだし…」



その可愛らしいカナちゃんがしょんぼりとした顔でボソボソと言った。



はあ!?どこが…!?




さっきまでここで、女子にダサいと思われたくないとか、どうとか言ってたアイツが!




ていうか……



話の途中で私は気が付いた。


こ、これはまさか……

コイバナってやつでは……?





「ミサキ、一限の体育で転びそうになったの助けてもらったんだってさ」





「きいたきいた。いいなあ〜ミサキ」




「イケメンだしちょーー優しいし、完璧だよね」




なに、なんなのコレ。


君たち一体何を言ってるの……!?


私の知らない小町くんの話を、三人の少女たちは楽しそうに話している。



「先生、蓮くん何か言ってなかった?」




「えっ」




そこで私に話が振られると思っていなかったので、間抜けな声が出る。

先生らしさなんてかけらもない、バカっぽい声。





「えーと……。特に何も言ってなかったと思うけど……」





「もしかして蓮くん、彼女とかいるのかなぁ」




膝に絆創膏を貼られたカナちゃんが、また独り言のように呟く。





「えー!?いないでしょ!いたらもっと早く噂になってるって!」



う、うわさ…!?




「小町くんて、そんなに有名人なの?」



思わず勢いで聞いてしまった。




だって、なんだか彼女たちが話している小町くんは、私の知っている彼とは全く別人の様に感じてしまって。

しかもなんか相当有名人っぽいし……




「先生知らなの?」



「え?」



「蓮くん、校内では結構モテモテの有名人だよ〜」




「そうそう。かっこいいし、イケメンだし、優しいし。一年の時ファンクラブみたいなのできてたよね」



ファンクラブですとー!?




「けど奥村君以外の人と居るところ見たことないし、ほとんど授業中は居ないし…なんかちょっとミステリアスっていうか…」




み、みすてりあす……?





「そこが良いんじゃん!!」




キャッキャッと目の前で繰り広げられるガールズトークに、私は呆然とする。





「笑った顔が可愛い」とか、
「中学水泳部だったらしいよ」とか、

話す内容は、
私が知らない小町くんがどんどん出てくる。




恐るべしスクールライフ…


そして小町蓮…!



しばらくすると、チャイムが鳴り
女子生徒3人は「先生またねー」と言って帰っていった。



その後しばらく、私は彼女たちが思い描く小町くんを頭の中で想像してみたけれど
どれも私が知っている小町くんには全然当てはまらない。



私が知っているこの学校のことって、ほんの一部なんだろうな…


小町くんも。

私が知っている彼はからかい上手で、仮病常習犯って事だけ。


彼だけじゃなく、ここにくる生徒たちは皆んな。


ここにいるときは、ほんの一部に過ぎなくて、学校では別人の様に、授業や休み時間や放課後を過ごしているのかもしれない。



なんだかそれがちょっと寂しく思えてしまった私だった。