小町くんの落ち着いた声に、私はポカンとして彼を見返した。


目を細めて笑う小町くん。

いつもに比べて大人びた微笑みだった。



「…そうなの?」





「…ぶはは!思った通りの反応するね、先生って」



その大人びた小町蓮は一瞬のうちに消え去り、いつもの仮病常習犯の顔に戻る。




「……え?何、どういうこと?」



なに?今一瞬見えた顔…



そして小町くんまた私をからかおうとしてる?


言葉の意図が読み取れず、私は戸惑う。

私が頭悪いだけ?



いやいやいや、そんな訳はないはず。

あきらかに、空気がいつもと違うってことはわかる。


「本当に俺が寝るためだけにここに来てると思ってんの?」



また。


さっき見た顔と同じ。


いままで見たことない顔。



それはいつもの小町くんみたいに、笑っているはずなのに


まるで違う。




小町くんの言葉が、頭をぐるぐる回りはじめる。





「…どういう意_____


ーガラッ





運悪く私の言葉は、ドアの音で遮られてしまった。




「先生〜、転んだ〜」




数名の女子がドアの前に立っている。




様子を見ると、ひとりの生徒にふたりが付き添いできたって感じだろうか。




真ん中にたっている生徒の膝からは、血がすこし出ていた。





「大丈夫?そこ座って……_」




女子生徒を促しながら小町くんの方を見ると、彼は立ち上がって、私の横をスルリと通り過ぎた。




「もう平気だから、俺行くね」




「えっ、ちょ__」




「大丈夫。ちゃんと冷やしとくから」




そう言い残すと、女子生徒の横を通り
空いていたドアから出て行ってしまった。





なんなの…………?





「先生?」




女子生徒に声をかけられて、ハッとした私は、すぐに手当てを始める。



消毒液をコットンに染み込ませていると一人の女子生徒が小さな声でつぶやいた。



「ねぇ、さっきの蓮くんじゃん…!」



「ね!どしたんだろ?」



「先生、蓮くん怪我でもしたの?」



「えっ」



会話の矛先が急に自分に向き、私はあたふたと彼女たちの顔を見た。



蓮くん……?




「あぁ、小町くん?」




いつも苗字で読んでるから、全然耳が聞きなれないその名前に私はハッとする。





みんなからは“蓮くん”って、呼ばれてるんだ……





「ちょっとね。でももう戻ったから大したことないんじゃないかな」




なんて。

ほんとは凄い痛いくせに。


女子が来たからって、意地はっちゃったのかしら。




まったく。




「そっかぁ、いいなあ。蓮くんとふたりきりなんて」






…………はい?





足を怪我していた女子が、ボソッとつぶやいた。