「折れてたらもっと痛むんでしょ?だったら全然へーき」




指先に少しだけ力を入れてみる。




「…っ 」




全然平気なんて嘘じゃない…


ちょっと力を入れただけなのに。


指先に力を入れた瞬間、小町くんは痛そうに顔を歪ませた。




「何嘘ついてんのよ、バレバレ」




「あはは。でも本当に先生が思ってるほど痛くないから」




小町くんはにっこり笑う。




「でも痛いんでしょ?」




「多少ね」




ため息をついた私は立ち上がり、手当て用の備品を探しに入り口付近の救急箱を物色する。




「取り敢えず、これで冷やして」




小さな冷凍庫から保冷剤を一つ取り出し、ガーゼを巻いて彼に渡す。




「ん、ありがと」



「小町くん、利き手どっち?」




「ハズレ、俺左利きなんだよねー」



ひらひらと無事な左手を振りながら小町くんは笑った。




「そう、なら良かった」





湿布を取り出しながら横目で小町くんを見ると、ちゃっかり保冷剤を手首に当てているのが見えた。




思わず口元が緩む。




やっぱり痛いんじゃない。




「はい。湿布貼るから保冷剤どけて」




素直に言うことを聞いて、当てていた保冷剤を退かす小町くん。



「つめた」



半分切った湿布を、赤く腫れた手首にそっと貼る。



「ふふ、我慢して」




さっきからいちいち反応が面白い。

いつもは小町くんペースに乗せられてばかりだから、今みたいな従順な小町くんがなんだかおかしくて。



もしかして、今日くらい私がからかっても大丈夫だったり。


なんてね。




「しばらくはこれで我慢して。後でちゃんと病院で診てもらうこと、いい?」



「はーい」



いつもの気だるげな声で小町くんは返事をした。





「……今日はここに居てもいいでしょ?」



さっきよりワントーン低くなった声で小町くんは言った。




振り向いてみれば、いつものあの表情でこっちを見ている。

だけどちょっとだけ不安そうな顔。


その姿が少し可愛く思えて。



また口元が緩んだ。




「今日は許す」



私が答えると、小町くんは嬉しそうに笑った。




「あ、でも明日からちゃんと授業でてよね」




すかさず付け加えると、さっきまで嬉しそうな顔だった小町くんが、唇を尖らせた。




「……元気だったら」



「何言ってんの。小町くんいつも元気じゃない」




「・・・・」




私の言葉に言い返せなくなったのか、小町くんは表情を変えずにそっぽを向いた。