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次の日。





またもや三限目の開始を知らせるチャイムが鳴ろうとしていた。




「はー……」




この時間が憂鬱でたまらない。



もしこのまま小町くんがずっと保健室に通い続けて、
もしそれが誰かお偉い先生に噂で伝わって
不登校的な扱いになり問題なんかになったりしたら…


まずい…。


嫌な妄想が頭の中でどんどん膨らんでいく。



いや、ダメよ。


今日こそちゃんと追い返して、
私の普通の日々を取り戻すのよ…!


小町くん以外にも保健室に来る生徒は沢山いるんだから!



私は気合いを入れると、落ち着いて対応できるように深呼吸した。




ーガラッ




「おっはよ〜〜!」




めっちゃ元気じゃん!

げ、と私は頭を抱える。

なんで保健室に来るのよ!!



あぁ、頭が痛くなってきた…。



「……おはようございます」




小町くんは、今日も相変わらず元気なご様子で。



軽い足取りでベットまで向かう。




「ちょ、こら!貸すなんて言ってないでしょ!」


私は慌てて彼を止めに追いかける。


私の仕事場、奪還!!



「違うよ、俺今日は本当に病人だってば」



くるりとこちらを振り向いた小町くんは、怖いもの無しという顔でそう言う。




「もう騙されないから!ほら、早く戻って!」




「嘘じゃないよ、ホラ見てみ」



「へ?」



彼はゆっくりと右手を私の目の前に出した。



小町くんが袖をめくると、白い腕がシャツから覗く。



よく見ると手首が、赤く腫れている。

うわ、と思わず小さな声が漏れた。



「これ……、どうしたの?」




見た所、折れては無さそうだけど…、


この腫れ具合からして、かなり痛そうだ。




「ね?嘘じゃないでしょ?」




手首から視線を外し、また彼の顔を見ると、自慢げに笑っている。


いや、笑い事じゃないレベルなんだけど。




「さっき体育しててさ、ぶつかって来た女子がコケそうになったのを助けたらこうなっちゃった」




なっちゃった、じゃないわよー!

この人なんで笑ってるの?




「…それいつ?」




「体育始まってすぐ」




「はあ!?なんでもっと早くこないの!」




「だって、助けた俺が怪我するなんてダサいじゃん?そんなに痛くもなかったから放置してた」




こいつアホか!!




ダサいとかいう理由でこんなになるまで怪我放置しておくなんて…




「もっとはやくきなさいよ!もし骨折とかだったらどうするのよこれ…」




「先生いつも来んなって言ってんじゃん」




うぐ…………




「それは……!仮病の時だけよ!怪我した時に来ないでどうすんのよ!」




「だからちゃんとこうして来たじゃん」



うぎぎぎーー!!



小町くんは爽やかに微笑んでいる。



絶対楽しんでるな。


落ち着け、私。
怒っている場合ではない。


私は大きく息吐いて、もう一度その怪我を見た。




やっぱりどうみても痛そうなほど手首の腫れは酷い。

よっぽど変な体制で倒れ込んだんだろうな。



「とりあえず、怪我見るから。手 貸して」



小町くんはそっと手を出した。



なるべく痛くないように、軽く触ってみる。




「痛い?」




「んー、少し」




「折れては無いと思うんだけど……」



腫れがある部分周辺を、やわやわと触りながら確認していく。