「その、「ちょっとくらい」って言葉、魔法の言葉じゃないんだからね!私には効きませんよ」
小町蓮はこちらをじっと睨みつけながら
「じゃあいいよ。このまま喋る」
拗ねたように唇を尖らせて言った。
わざとやってるなこいつ。
そんな顔してもダメだし。
あざといっていうか、なんていうか
たまに私もドキッとしてしまう。
顔がいいってなんて便利なんでしょう。
「先生、彼氏いねーの?」
小町くんは言葉通りに1人で話し始めた。
「・・・・」
「ちょ、聞いてる?」
「聞いてません」
「聞いてんじゃん」
聞こえないフリ、見えないフリ。
私は目の前にある仕事に集中する。
小町くんが保健室に来るようになって、
周りの音をシャットアウトする能力が身についた気がする私が今やるべきことは一つ。
仕事。
彼の話に、いちいち付き合っていたらあっと言う間に時間が過ぎてしまうから。
さすがに何度も痛い目を見れば、私だって学習する。
カタカタと、パソコンのキーボードが軽快な音を立てる。
「…………先生ってさ、処女?
「はぁ!?んなわけないでしょうが!」
しまった。
つい。
なんて質問をするんだ。
口をパクパクさせながら小町くんの方を見ると、ニコッと可愛い笑顔を見せた。
「やっとこっち見た。そんな忙しいの?」
「……そうやってからかうのやめなさい」
最悪だわ。
よりによってなんであんな質問なんかに。
いや、なんていうか。
条件反射っていうか……
「先生が俺の相手してくれないからじゃん」
いつのまにか布団から出ていた小町くんは、ベッドの上であぐらをかき、頬杖しながらこっちを見ていた。
「お腹痛いんでしょ?静かにしててください」
私はそう言って入り口と扉に貼ってある、『保健室では静かに!』のポスターを指差した。
「……もう治った」
「…いい加減にしないと怒るわよ!ホラ!さっさと寝る!」
私はベッドに駆け寄り、布団の中に無理やり押し込もうと、小町くんを強く押した。
「オレ、センセイの怒った顔好きだよ」