私が急いで近付く頃には、カーテンを閉められてしまった。



「もう、帰りなさいってば!」



勢いよくカーテンを開けると、
鼻のとこまで布団を被り、目だけを覗かせている彼。




「プライバシーの侵害」



そしてこの一言。



さっきの元気な顔とはまるで違う表情。


黒目がちな目を潤ませて、
形のいい眉をハの字に曲げる。



「明日からちゃんとするから、ね?お願いセンセイ」



私はこの言葉に弱いのだ。



「あぁ、もう…」



この言葉と、このうるうるした目に、私はいつも負けてしまう。



ちなみにさっきの言葉を聞くのは今日で23回目。




今日もまた、負けてしまった。



「はぁ…、1時間だけね…」



雪名紫、今日も完敗でございます…。



「やった♩」



“ありがと、先生”
にこにこした顔でそう彼は言って、またベットに潜り込んだ。




彼がこの保健室にやってくるようになったのは三ヶ月前の、始業式だったか。



体調が悪いと言ってやってきた彼を、私は普通の生徒への対応と同じように
気分が悪いなら休んでいいわよ、とベットへと促した。




そしてなぜか次の日からほぼ毎日やってくるようになったのだ。




小町 蓮(コマチレン)、 2年生。



身長177センチ、体重59キロ。
調べたわけじゃなく、毎年の健康診断で把握済みですので。


彼の特徴。

細身

色素が薄い

顔がいい




顔もなんとまぁ甘いフェイスで、身長も平均より上。


柔らかそうな髪がふわふわとしていて、まるで猫のよう。


何故毎日毎日こんな所にやってくるのか未だ理解できない。


以前、思い切って聞いてみたところ、
『ベットの匂いが落ち着くんだよね〜。あ、あと教室がうるさいから』
だそうだ。



教室がうるさいから保健室にやってくる考えってどうなのかしら。


まったく最近の高校生は……なんて、
カッコつけて愚痴りたいところだけど、
5年前まで高校生してた私が言えることじゃない。


まだ私も新米のぺーぺーなもんで。



「やっぱ暇だからこっちきて一緒にお話ししよ、先生」



カーテンの中から聞こえる元気そうな声。


私は呆れながら声の方を見ずに答える。



「ダメ。病人は寝てなさい」



なにしに保健室に来てるの?この人。



「なんで、ちょっとくらいいいじゃん」



拗ねた声と一緒に、閉められていたカーテンが勢いよく開いた。