『…―ゆみちゃん!いつかぜったいまたあってこのたからばこあけようね!』


『…―うんっ!約束だよ、だいちゃん!』


幼い頃の小さな思い出。
私の幼馴染みであり、初恋の相手でもある1人の男の子と交わした1つの約束だ。


私は可愛らしい小さな宝箱を、男の子はそれを開ける金の鍵を手に離れ離れとなって。



――それから約9年。


「…―今日から私も高校生かー」


気づけば私も高校生になる時を迎えた。


高校の門には立派な桜の木が並び、まるで私達新入生を歓迎するかのように花を咲かせる。
一歩一歩と進めばそこはピンクの絨毯。


(…いよいよ、始まるんだ…)


やけに緊張した体に心臓。
まぁ緊張するのは仕方がない。


だって今日が入学式だから。





「…―でありまして…」


長い長い校長先生の話。
中学校でも校長先生の話は長かったけど、やはり高校に上がっても変わらないものなんだな。


そんなことをぼんやりと考えながら入学式が終わるのをただ座って待っていた。


…―と。


「…―続きまして新入生代表『大山大輔』より、決意表明」


(……―え?)


一瞬、耳を疑った。
薄れつつあった思考が一気にフル活動。


堂々と舞台上に上がる男子の後ろ姿を食い入るように見つめた。


「……―僕達は今日から、この皇城高等学校に通うこととなりました」


堂々たる立ち姿。スラリと伸びた身長。
キリッとした顔立ちに凛とした低音の声。


『あの頃』とは違う所も多いけど。


でも。


「…―だ、いちゃん…?」


間違いなく、あの時約束を交わした張本人だった。




入学式終了後、私は急いで同じクラスではないだいちゃんの教室へと向かった。
ガラリとドアを開け、辺りを見回す。


「…―あ!だいちゃんっ!」


教室の窓側の椅子に腰掛けただいちゃんを発見し、パタパタと近づいた。


「…―えっと…君は?」


「新木友美!覚えてない?ほら、小学生の時によく遊んだでしょ?」


「新木…友美?」


「そう!いつか宝箱開けようねって約束したじゃん!」


「…宝箱…」


「これくらいの小さな宝箱!…ほんとに覚えてないの?」


「…ごめん、思い出せないみたい…」


申し訳なさそうに眉を下げるだいちゃん。
まぁ約9年前のことだから忘れていても仕方ないのかもしれないけど。


(…正直、ショックかも)


心の中で密かにだいちゃんと出会うのを楽しみにしていた私。
そのこともあってショックは大きかった。


「…そっ、か。…まぁ9年も前の事だし覚えてなくても仕方ないよね!」


「ごめん…」


「いいっていいって!…あ、それよりおばさんとかおじさんは元気?一緒に遊んでた時によくお世話してくれてたんだよねー」


「…母さん達は元気だよ。いつもちゃらんぽらんって感じだけどね」


「あははっ、おばさん達面白い人達だったからなー」


私が幼い頃は『だいちゃんママ』『だいちゃんパパ』って呼んでて、随分とよくしてくれたのを覚えてる。
とにかく明るい2人で、いつも遊びに行ってたっけ。