加納さんの発言は、どうしてこうも、毎度、私の心をザワつかせるんだろう。

私をからかって楽しんでるように見えなくもないけど、口にするのは、確かに貴重な情報ばかりだ。

まぁ、聞いておいても損はないか.......


「うん。だから、みんな興味津々。」

「でも、何にもないですよ。」

「これから何があるかわからないでしょう?」

「あ、いや、それは.......。」


この調子なら、痴漢から助けてもらった件も、すでに加納さんが館内に拡散させてるような気がする。

別に構わないけど、入社して間もない私がそこまで注目されてるなんて、今までまったく知らなかった。


でも、この話、できればもうちょっと早く聞きたかったな.......

昨日、あんなことがあった後だけに、かなり複雑な心境だ。

思わずため息を吐いて、視線を落とした瞬間、待ち構えていた例の軽々しい挨拶が聞こえて来た。


「ちーっす。」

「あっ、おはよう。」

「昨日は、ホント、ごめんね。」

「ううん、上手く行って良かったね。」

「あかねちゃんのおかげだよ。マジ、助かった。」

「そう?」

「うん。お詫びに明後日、奢らせて。」

「えっ、いいよ。」

「いいの。昨日、行けなかった分も、パ~っと飲もう。」

「.......わかった、じゃあ。」

「よし。」


彼はニコっと微笑むと、満足そうな顔で別棟の方へ向かって行った。

何だかホッとする。

昨夜のことなんてなかったみたいに、いつもと何も変わらない風景だ。


こんな風に彼と仲良くしていられるなら、これ以上は何も望まない。

今は本当に、それだけで十分だと思う。