だから、まだ完全には諦めなくてもいいよね。

彼の心が、彼の好きな人にあるのはわかってるけど。


振り向いてもらえなくても構わない。

せっかく仲良くなれたんだから、今はまだ彼のそばにいたい。


それくらいなら、許されるよね?

彼の迷惑にならないよう、気持ちを伝えたりしないから。

好きな気持ちが落ち着いて行くのを、彼の隣でゆっくり待たせてもらうだけなら.......、


そう決心して、次の日は「中番」のシフトで出勤した。

昨日は震える手で何とか彼にメッセージを返し、次の約束だってしたんだから、もう大丈夫。

出勤して来たら、いつものように笑顔で迎えてあげなくちゃ。

彼だって、昨日の出来事を気にしているはずだから。


ここからは、私の頑張り次第。

彼は私の気持ちになんて、これっぽっちも気が付いていないみたいだし。

それも不幸中の幸いだと思って、一緒にいる時は楽しく過ごせるようにしよう。


そうは思っても、彼が来る時間が近付くにつれ、緊張して来る。

エントランスの自動ドアが開く度、ついついチラ見してしまう。


「ね、チャラ男くん、待ってるの?」

「へっ? いや、違いますよ。」

「うそ。早く来ないかなぁって、顔に書いてある。」

「そ、そんなことないですよ。」

「遠慮しなくていいって。もう噂になってるよ。」

「何が、ですか?」

「とぼけなくていいよ。二人、すごく仲良いじゃん。」

「あぁ、それは近所だから。」

「ホントにそう思ってる?」

「はい。」

「そうかなぁ?」

「そうですよ。」

「でもさ、彼って誰とでもフレンドリーな割に、誰か特定の女の子と仲良くするとかは、今までなかったんだよね。」

「そう、なんですか.......?」