「ジョージ・ハリスン。」
すずは、今日はじめて聞いた外国人の名前をくり返してみた。
声に出すと、その名前は、すずの口の中でくすぐったく転がった。
「あの繊細な曲を作り、流れるようなギターを奏で、はかないガラスの声で歌う。
王子さまみたいだ。
それだけじゃないけどね。
彼の魅力は。
背伸びをしたり、思い上がったり、弱気になったり強がったり……生きざますべてが、いとおしい。」
「ジョージ・ハリスン……。」
すずは、もう一度つぶやいた。
どんな顔をしていたのか、それすら知らない男の人の名前を。
すずの胸の奥から、ゆるゆると、熱い息があふれた。
マーティンと向き合うときと同じように。