「あたしが泣いたのは、あなたのマーティンが泣いてたからよ。」
「おじょうちゃんなのに、このギターのことを知ってるのか。」
「知ってる。
あたしのギターもマーティンだから。
マーティンO―18よ。
それと、おじょうちゃんっていうのはやめて。
あたしには、すずっていう名前があるの。」
おねえさんは少しだけ目を見張って、さっきよりも深くほほえんだ。
「わかったよ。
おいで、ベルちゃん。」
ベル?
何それ。
「すず」だから?
すずは、心の中で反発したけれど、おねえさんのほうへ行った。
背負ったギターと抱えたバッグが、重くてしかたなくなってきたのだ。
すずは、おねえさんのギターケースのそばに、自分のギターとバッグを置いた。